日本では祭というただひとつの行事を透（とお）してでないと、國(guó)の固有の信仰の古い姿と、それが変遷して、今ある狀態(tài)にまでたっしている事情とは、うかがい知ることができない。現(xiàn)在、宗教といわれる幾つかの信仰組織、たとえば、仏教やキリスト教と比べればすぐに気づくが、われわれの信仰には経典というものがなく、またそれゆえに説教者というものもなく、平日すなわち祭でない日の伝道ということはなかった。そして古くは専門の神職も存せず、ましてや彼らの教団組織もなかった。個(gè)々の神社を取り囲んで、それぞれに多數(shù)の指導(dǎo)者がいたことは事実であるが、その教えは、もっぱら行為と感覚とを持って伝達(dá)せられるべきもので、常の日、常の席では、これを口にすることをはばかられていた。すなわち、年に何度かの祭に參加したものだけが、次々にその體験を新たにすべものであった。祭は、このようにして、日本人の國(guó)民信仰の、言わばただ一筋の飛石（とびいし）であり、この筋を歩んでゆくより他には、神ながらの道を究（きわ）めることはできなかったわけである。
日本は祭のさかんな國(guó)で、年中どこかで祭があり、そしてそれは派手な賑やかなものと考えられがちである。しかし、祭は本來(lái)はもっとつつましやかなもので、村里の祭では、氏子（うじこ）たちだけが御社（やしろ）に集まって、供物（くもつ）を神にささげ、お神酒をいただくものであった。マツリとは、神のお側(cè)にいる、神に奉仕する、の意である。
祭には必ず木を立てるということ、コレが日本の神道の古今を一貫する特徴のひとつであった。神は、本來(lái)、祭のときに空から降臨されるもので、その目じるしとして竿（さお）が立てられ、紙のシデ、麻の糸、布の類をつけ、夜にはそれを照らすように火をたいた。それ以前は、自然の高い木を選んで、神の降臨の依代（よりしろ）とした。時(shí)代が下がり、神社が建てられるようになると、神がそれに常在すると考えられるようになったが、今でも大きな祭のときに柱を立てる儀式を行う神社は、有名な諏訪神社（長(zhǎng)野県）を始め，各地に殘っている。
日本人の昔の一日は、現(xiàn)在の午後六時(shí)ごろから始まった。祭の日も、夕御饌（ゆうみけ）
から始まって、次の麻御饌（あさみけ）で完成したもので、この一夜が祭の最も大切な部分であった。祭は主として屋內(nèi)で行われ、庭にはかがり火がたかれた。祭の本體は「籠（こも）る」ことであった。つまり、祭とは、神に酒食をささげておもてなしをし、紙のご様子を伺い、神の仰せを待つものである。そして、その前に次坐（じざ）した人々は、神に差し上げたものと同じ酒食を、いっしょにいただくのである。
この飲食物は、元來(lái)は調(diào)理されたもので、極度に清潔でなければならなかった。同時(shí)に、祭に參加して共食の光栄に預(yù)かる人々も、十分に物忌み（ものいみ）または精進(jìn)（しょうじん）して、少しも穢（けが）れのないものでなければならなかった。逆に言えば、物忌みあるいは精進(jìn)とは、神を祭るにふさわしい狀態(tài)に自分をするための、一定期間の慎しみ、である。その慎しみが足りないと、神は、祭をうけたまわないのみか、しばしば怒りたまう、と考えられた。以前は、祭に參加するすべての人々が、これを行った。今日でも、氏子全員が、祭の數(shù)日前から、晝眠り夜起きて、いっさい音を立てないように、靜かにひっそりと生活する風(fēng)習(xí)を伝えるところがある。しかし、今日多いのは、頭屋（とうや）だけが厳重に物忌みを守る習(xí)慣である。その守るべき行為の內(nèi)容については、それぞれの地方、それぞれの神社によってさまざまである。いくつかの例を挙げれば、次のようである。
ある地方では、頭屋の家を清浄にし、その座敷を神霊の宿る神の宿とし、その部屋には頭屋の主人しか入れない。そして他家を訪問せず、また外來(lái)者を家に入れない。あるいは毎日燈明をあげ、潮を浴びる。また、ある地方では、他家を訪問してもよいが、他家では飲まず、夫婦間の交わりや茶·煙草を斷つ。
仏教における精進(jìn)ではない、一切の動(dòng)物質(zhì)の食物を避けるが、神道で忌むのは獣肉と血である。また、火の選択にはやかましく、穢れのある家（たとえば死者が出たばかりの家）の火を利用してはならず、いっぽう水の清浄化の性能も重視した。神前に近づくには、水で全身を清めてから出なければならない、という習(xí)慣は、今日の神社の手水鉢（ちようずばち）として形を殘している。
神をおもてなしする方式は、人が最上級(jí)の賓客（ひんきゃく）を迎える場(chǎng)合と、そっくりであった。最上の酒と食物——必ず海のものが含まれた——が、できるだけ清らかに並べられる。また、わが國(guó)在來(lái)の競(jìng)技である相撲、綱引き、闘鶏、牛の突きあいなど、そのほとんどが神を慰めるための催しとして、祭の日に行われたのである。
また、神楽（かぐら）については、これはもともと踴りではなく、はじめに神に対する?語(yǔ)りごと?があって、それにつれて第二次的にジェスチュアが発生したもの、と考えられる。舞の始源は、人々が神をたたえ、?必要な場(chǎng)合には、いつでも出現(xiàn)されて、尊い啓示を賜ることを、一同少しも疑っておりませぬ?という意味のことを、熱心に繰り返し語(yǔ)っているうちに、恍惚（こうこつ）として、彼らが人か神かの境に沒入していったものである。毎年の祭の機(jī)會(huì)として、神の御心を和（なご）め、いよいよその幸いを垂れたまうことを期するには、ただ抽象的に神徳の高いことを讃（たた）えるだけでは足りない。人々は、神に向かって、神のご機(jī)嫌の最もうるわしいと思うときを測(cè)って、最も慎み深い言葉でもって、次のように述べることを許されていた。?あなたは大昔、こういうことをなされたというではありませんか、こういう言い伝えを手前どもは記憶しております。?そしてさらに?こういう願(yuàn)いを、あなたならばお聞き屆けくださる、それがわれわれの遠(yuǎn)い祖先との堅(jiān)いお約束であったと心得ております。?そうして、それらを申し述べているうちに、感きわまって舞ういたったのである。
能には、このような「語(yǔ)りごと」と舞との関係が、痕跡として殘っている。また、現(xiàn)在の村の神楽で、ひとつところをぐるぐる廻ったりするのも、その名殘と考えられるが、人々はこれをたんなる型と考えて、その意味は忘れられている。神と人間の間は、昔ほどより近く、また祭の形式全體も、昔は今よりいちだんと、神をあたかも貴賓（きひん）を款待（かんたい）するかのように人々は振舞っていたのである。
日本の祭が、古代から今日まで、どのように変化してきたかを考えるばあい、最も重要な変わり目は、一言でいうなら、見物という群の発生であったろう。すなわち、祭の參加者の中に、いわばただ審美的の立場(chǎng)から、この行事を眺める者のあらわれたことである。
それが人びとの生活を花やかに彩り（いろどり）もしたが、同時(shí)に神社を中核とす信仰の統(tǒng)一にひびを入らせ、村に住みながらも祭はただ眺めるものという気風(fēng)も生んだ。この気風(fēng)は、むろん最近にはじまったことではなく、明治時(shí)代以前からも村里の生活に浸潤(rùn)していた。農(nóng)民たちは、村の経済の豊かなときには、この「見られる祭」を美しくようと心がけつつ、一方、神様と祖先以來(lái)の約束を捨て去りはしなかった。このようにして新舊の儀式のいろいろの組み合わせが、祭というひとつのなをもって呼ばれるようになったのである。
「解説」
日本は祭の盛んな國(guó)で、年中どこかで祭を行っている。その行事は多種多様で、全國(guó)の重要な祭の數(shù)でも五萬(wàn)に達(dá)するといわれる。著者は多種多様な祭を構(gòu)成する共通の原因は
何かを見出そうとする。著者が挙げているのは次の五つである。すなわち⑴祭場(chǎng)、⑵祭儀を司る（つかさど）家、⑶祭の中心をなす神事（供物を捧げること、神楽、神が神社からお旅所に行く神幸の行列など）、⑷神への供えもの、そして⑸季節(jié)と関連した祭日――春秋祭は豊作の祈願(yuàn)と収穫への感謝、夏の祭はたいてい疫病や水害をはらう都會(huì)的な祭、そして冬の祭は冬至を中心とした忌（いみ）祭（さい）で、御火（おひ）焼き（やき）をするところが多い。著者はまた、祭の由來(lái)を明らかにしようと試み、そこで今日では軽視されがちな物忌みについても、これを重視して説いている。
柳田（やなぎた）國(guó)男（くにお）（一八七五―― 一九六二）は、東京帝國(guó)大學(xué)を卒業(yè)後、農(nóng)商務(wù)省につとめ、同時(shí)青年時(shí)代には文學(xué)者たちと交わり、みずからも詩(shī)を書き、外國(guó)文學(xué)を紹介したりした。三十歳のころから、日本の各地を旅行し、産業(yè)組合の普及に力を入れ、やがて民俗學(xué)の研究へと進(jìn)んだ。雑誌「民族」を発行、「民間伝承の會(huì)」（日本民俗學(xué)會(huì)の前身）を主宰（しゅさい）し、それによって在野の人々を組織し、日本民俗學(xué)の基礎(chǔ)をきずくのに大きな影響をおよぼした。民俗學(xué)関係の著書は、優(yōu)に百冊(cè)を越える。
日本は祭のさかんな國(guó)で、年中どこかで祭があり、そしてそれは派手な賑やかなものと考えられがちである。しかし、祭は本來(lái)はもっとつつましやかなもので、村里の祭では、氏子（うじこ）たちだけが御社（やしろ）に集まって、供物（くもつ）を神にささげ、お神酒をいただくものであった。マツリとは、神のお側(cè)にいる、神に奉仕する、の意である。
祭には必ず木を立てるということ、コレが日本の神道の古今を一貫する特徴のひとつであった。神は、本來(lái)、祭のときに空から降臨されるもので、その目じるしとして竿（さお）が立てられ、紙のシデ、麻の糸、布の類をつけ、夜にはそれを照らすように火をたいた。それ以前は、自然の高い木を選んで、神の降臨の依代（よりしろ）とした。時(shí)代が下がり、神社が建てられるようになると、神がそれに常在すると考えられるようになったが、今でも大きな祭のときに柱を立てる儀式を行う神社は、有名な諏訪神社（長(zhǎng)野県）を始め，各地に殘っている。
日本人の昔の一日は、現(xiàn)在の午後六時(shí)ごろから始まった。祭の日も、夕御饌（ゆうみけ）
から始まって、次の麻御饌（あさみけ）で完成したもので、この一夜が祭の最も大切な部分であった。祭は主として屋內(nèi)で行われ、庭にはかがり火がたかれた。祭の本體は「籠（こも）る」ことであった。つまり、祭とは、神に酒食をささげておもてなしをし、紙のご様子を伺い、神の仰せを待つものである。そして、その前に次坐（じざ）した人々は、神に差し上げたものと同じ酒食を、いっしょにいただくのである。
この飲食物は、元來(lái)は調(diào)理されたもので、極度に清潔でなければならなかった。同時(shí)に、祭に參加して共食の光栄に預(yù)かる人々も、十分に物忌み（ものいみ）または精進(jìn)（しょうじん）して、少しも穢（けが）れのないものでなければならなかった。逆に言えば、物忌みあるいは精進(jìn)とは、神を祭るにふさわしい狀態(tài)に自分をするための、一定期間の慎しみ、である。その慎しみが足りないと、神は、祭をうけたまわないのみか、しばしば怒りたまう、と考えられた。以前は、祭に參加するすべての人々が、これを行った。今日でも、氏子全員が、祭の數(shù)日前から、晝眠り夜起きて、いっさい音を立てないように、靜かにひっそりと生活する風(fēng)習(xí)を伝えるところがある。しかし、今日多いのは、頭屋（とうや）だけが厳重に物忌みを守る習(xí)慣である。その守るべき行為の內(nèi)容については、それぞれの地方、それぞれの神社によってさまざまである。いくつかの例を挙げれば、次のようである。
ある地方では、頭屋の家を清浄にし、その座敷を神霊の宿る神の宿とし、その部屋には頭屋の主人しか入れない。そして他家を訪問せず、また外來(lái)者を家に入れない。あるいは毎日燈明をあげ、潮を浴びる。また、ある地方では、他家を訪問してもよいが、他家では飲まず、夫婦間の交わりや茶·煙草を斷つ。
仏教における精進(jìn)ではない、一切の動(dòng)物質(zhì)の食物を避けるが、神道で忌むのは獣肉と血である。また、火の選択にはやかましく、穢れのある家（たとえば死者が出たばかりの家）の火を利用してはならず、いっぽう水の清浄化の性能も重視した。神前に近づくには、水で全身を清めてから出なければならない、という習(xí)慣は、今日の神社の手水鉢（ちようずばち）として形を殘している。
神をおもてなしする方式は、人が最上級(jí)の賓客（ひんきゃく）を迎える場(chǎng)合と、そっくりであった。最上の酒と食物——必ず海のものが含まれた——が、できるだけ清らかに並べられる。また、わが國(guó)在來(lái)の競(jìng)技である相撲、綱引き、闘鶏、牛の突きあいなど、そのほとんどが神を慰めるための催しとして、祭の日に行われたのである。
また、神楽（かぐら）については、これはもともと踴りではなく、はじめに神に対する?語(yǔ)りごと?があって、それにつれて第二次的にジェスチュアが発生したもの、と考えられる。舞の始源は、人々が神をたたえ、?必要な場(chǎng)合には、いつでも出現(xiàn)されて、尊い啓示を賜ることを、一同少しも疑っておりませぬ?という意味のことを、熱心に繰り返し語(yǔ)っているうちに、恍惚（こうこつ）として、彼らが人か神かの境に沒入していったものである。毎年の祭の機(jī)會(huì)として、神の御心を和（なご）め、いよいよその幸いを垂れたまうことを期するには、ただ抽象的に神徳の高いことを讃（たた）えるだけでは足りない。人々は、神に向かって、神のご機(jī)嫌の最もうるわしいと思うときを測(cè)って、最も慎み深い言葉でもって、次のように述べることを許されていた。?あなたは大昔、こういうことをなされたというではありませんか、こういう言い伝えを手前どもは記憶しております。?そしてさらに?こういう願(yuàn)いを、あなたならばお聞き屆けくださる、それがわれわれの遠(yuǎn)い祖先との堅(jiān)いお約束であったと心得ております。?そうして、それらを申し述べているうちに、感きわまって舞ういたったのである。
能には、このような「語(yǔ)りごと」と舞との関係が、痕跡として殘っている。また、現(xiàn)在の村の神楽で、ひとつところをぐるぐる廻ったりするのも、その名殘と考えられるが、人々はこれをたんなる型と考えて、その意味は忘れられている。神と人間の間は、昔ほどより近く、また祭の形式全體も、昔は今よりいちだんと、神をあたかも貴賓（きひん）を款待（かんたい）するかのように人々は振舞っていたのである。
日本の祭が、古代から今日まで、どのように変化してきたかを考えるばあい、最も重要な変わり目は、一言でいうなら、見物という群の発生であったろう。すなわち、祭の參加者の中に、いわばただ審美的の立場(chǎng)から、この行事を眺める者のあらわれたことである。
それが人びとの生活を花やかに彩り（いろどり）もしたが、同時(shí)に神社を中核とす信仰の統(tǒng)一にひびを入らせ、村に住みながらも祭はただ眺めるものという気風(fēng)も生んだ。この気風(fēng)は、むろん最近にはじまったことではなく、明治時(shí)代以前からも村里の生活に浸潤(rùn)していた。農(nóng)民たちは、村の経済の豊かなときには、この「見られる祭」を美しくようと心がけつつ、一方、神様と祖先以來(lái)の約束を捨て去りはしなかった。このようにして新舊の儀式のいろいろの組み合わせが、祭というひとつのなをもって呼ばれるようになったのである。
「解説」
日本は祭の盛んな國(guó)で、年中どこかで祭を行っている。その行事は多種多様で、全國(guó)の重要な祭の數(shù)でも五萬(wàn)に達(dá)するといわれる。著者は多種多様な祭を構(gòu)成する共通の原因は
何かを見出そうとする。著者が挙げているのは次の五つである。すなわち⑴祭場(chǎng)、⑵祭儀を司る（つかさど）家、⑶祭の中心をなす神事（供物を捧げること、神楽、神が神社からお旅所に行く神幸の行列など）、⑷神への供えもの、そして⑸季節(jié)と関連した祭日――春秋祭は豊作の祈願(yuàn)と収穫への感謝、夏の祭はたいてい疫病や水害をはらう都會(huì)的な祭、そして冬の祭は冬至を中心とした忌（いみ）祭（さい）で、御火（おひ）焼き（やき）をするところが多い。著者はまた、祭の由來(lái)を明らかにしようと試み、そこで今日では軽視されがちな物忌みについても、これを重視して説いている。
柳田（やなぎた）國(guó)男（くにお）（一八七五―― 一九六二）は、東京帝國(guó)大學(xué)を卒業(yè)後、農(nóng)商務(wù)省につとめ、同時(shí)青年時(shí)代には文學(xué)者たちと交わり、みずからも詩(shī)を書き、外國(guó)文學(xué)を紹介したりした。三十歳のころから、日本の各地を旅行し、産業(yè)組合の普及に力を入れ、やがて民俗學(xué)の研究へと進(jìn)んだ。雑誌「民族」を発行、「民間伝承の會(huì)」（日本民俗學(xué)會(huì)の前身）を主宰（しゅさい）し、それによって在野の人々を組織し、日本民俗學(xué)の基礎(chǔ)をきずくのに大きな影響をおよぼした。民俗學(xué)関係の著書は、優(yōu)に百冊(cè)を越える。