日語(yǔ)閱讀:狐(きつね)の嫁入(よめいり)

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むかし、と言っても、つい此(こ)の間(あいだ)。そうさな、五十年ほど前だったろうか。
    山梨の金山(かなやま)っちゅうところに、炭焼きの爺(じ)さまがおっての。
    爺さまは、山で炭焼いてそれを町へ売りに行ってたんだが、町からの帰りに山道(やまみち)に差しかかったんだと。
    あったかい風(fēng)がフワフワ吹いて來(lái)て、なんだか、きみのわるい晩だったそうな。
    「はて、おかしいな」
    と、思って、ヒョイと前の方を見(jiàn)たら、きれいな娘が提燈(ちょうちん)を持ったお供(とも)を連れて歩いている。
    「こら、いいあんばいだ。あの提燈に連いて行こう」
    と、急ぎ足で歩いたが、間(ま)が縮(ちぢ)まんないんだと。それなら、と、今度は走ってみたけれども、やっぱりおんなじに離れている。
    「お、こら不思議じゃねぇか。ことによると、あら狐(きつね)だかも知んねぇ」
    暗闇(くらやみ)を透(す)かしてよおく見(jiàn)たら、お供の尻(しり)っぺたから、でっかい尻尾(しっぽ)が出てブラブラしているんだと。
    爺さまはおかしくなって、
    「おおい、その尻尾、まちんとひっこませや」と、言ったら、すぐ半分(はんぶん)程(ほど)引っ込んだ。
    「おおい、化けるのなら、まちんと上手に化けれや。そげな化け方していると、ほれ、つかめえちゃる」
    爺さまがおどけて手をのばすと、娘狐はたまげて、一聲?shū)Q(な)いて逃げて行ったんだと。お供狐も提燈をおっぱなして逃げて行ったんだと。
    「おや、狐の提燈とは珍(めず)らしい」
    爺さまは、それを拾って帰ったんだと。
    次の日、夜更(よふ)けに戸をたたくもんがいる。
    戸を開(kāi)けてみると、きれいな女が立っていたそうな。
    「夕べの提燈、どうか返してくんなせ」
    「うんにゃ返せねえ。おめえ、狐けえ。この提燈、珍しいから大事にとっておこうと思っている」
    「おら狐だ。娘を嫁にやるのに、今夜その提燈がいるんです。どうか返してくんなせ」
    爺さまは可哀(かわい)そうになって返してやったと。
    その晩の夜中に狐の嫁入(よめい)りがあっての、提燈が、いくつもいくつも揺(ゆら)めいて、それはきれいだったそうな。
    こんでちょっきり一昔。