日語閱讀:阿Q正傳(五)

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「貧乏人?‥‥‥おまえはおれより、よっぽど金持ちだ」そう言い捨てて、阿Qは立ち去った。
    一同は憮然(ぶぜん)となって、話もそれきり絶えた。趙旦那の親子は、家へ帰ると、
    燈(ひ)ともしころまで相談しあった。趙白眼は家へ帰ると、腰から巾著をはずして細(xì)君に渡し、
    行李の底へしまい込むように命じた。
    阿Qは、ふらふらして飛び廻って、地蔵堂へ戻ったときには、酒の酔いもすっかり醒めていた。
    この晩は、地蔵堂管理の老人もバカに親切で、お茶をふるまってくれた。
    阿Qは、餅を二つ所望して、それを食ってしまうと、さらに使いかけの四十匁蝋燭一本と燭臺(tái)を求めた。
    蝋燭に火をつけて、ただひとり自分の小部屋に橫になった。彼は、口に出して言いようのないくらい気分が新鮮で、
    愉快であった。蝋燭の光は元宵の夜のようにキラキラ閃き、彼の空想も次から次へと湧いた‥‥‥
    ?謀反か。おもしれえぞ‥‥‥白兜白鎧(しろかぶとしろよろい)の革命黨が乗り込んで來る。
    手には青竜刀、鉄の鞭、爆裂弾、鉄砲、三叉の剣、鎌先の槍。
    地蔵堂の前を通りがかって、「阿Qいっしょに來い」って誘うんだ。そこで、いっしょについて行く‥‥‥
    「そうなると未荘の有象無象(うぞうむぞう)が見ものだろうて。
    土下座して「阿Q、お助け!」と來るだろう。誰が聴いてやるものか。
    まっさきにやっつける野郎は、小Dと趙旦那だ。それから、秀才。それから、にせ毛唐。
    何匹殘してやるかな。ひげの王は、殘してやってもいいんだが、ええ、やっちまえ‥‥‥
    「分取り物‥‥‥踴り込んで行って、箱をあけてみると、出るわ出るわ。
    馬蹄銀、銀貨、モスリンの単衣‥‥‥まず秀才のかみさんの寧波(ニンポー)寢臺(tái)を地蔵堂へ運(yùn)んでくる。
    それから銭の家の家財(cái)?shù)谰擗E‥‥それとも趙の家のにするかな。自分じゃ手を出さないで、小Dの奴に運(yùn)ばせてやる。
    早く運(yùn)べ。おそいとガーンといくぞ‥‥‥
    「趙司晨の妹は、おたふくだ。鄒七嫂の娘は、まだ二、三年早い。
    にせ毛唐のかかあは、辮髪のない男と寢やがって、ふん、ろくでなしだ。
    秀才のかかあは、瞼にできものの痕があるし‥‥‥呉媽(うーま)は、そういえば長いこと見かけないな。
    どこへ行ったか‥‥‥惜しいことに大足だが」
    おしまいまで考えきらぬうちに、阿Qはもう鼾(いびき)をかいていた。四十匁蝋燭はまだ五分とは燃えていなかった。
    赤みのある、ゆらゆらした光が、彼の開いた口元を照らしていた。
    「おーう」と、阿Qは急に大きな聲を立てた。頭をもたげて、きょろきょろ周囲を見まわした。
    四十匁蝋燭が目につくと、またもごろっと頭を倒して、そのまま睡ってしまった。
    次の日、彼はおそく起きた。街へ出てみたが、何一つ変わっていなかった。相変わらず腹もへる。
    思い出そうとしても、何も思い出せなかった。しかし彼は、ふと思案が浮かんだようであった。
    のそのそ歩くうちに、いつのまにか靜修庵の前まで來てしまった。
    庵は、春のころと同じように靜かであった。白い塀と黒い門.彼は、しばらく考えてから、近づいて門を叩いた。
    犬が內(nèi)で吠えた。彼はあわてて煉瓦のかけらを拾い集めた。それから、もう一度、力をこめて叩いた。
    黒い門に無數(shù)のアバタができたころ、やっと內(nèi)から門を開ける音がした。
    阿Qはいそいで煉瓦のかけらを握りなおし、足を踏ん張って、黒犬との開戦に備えた。
    しかし、庵の門は細(xì)目にあいただけで、黒犬は飛び出してくる気配もなかった。
    覗いてみると、年とった尼さんがひとりいるだけであった。
    「おまえ、また何しに來たの?」尼さんは、びっくりして言った。
    「カクメイだぞ‥‥‥知ってるかい‥‥‥」阿Qは、あいまいな口調(diào)で言った。
    「カクメイ? カクメイはもう済んだよ‥‥‥おまえたち、私たちをどうカクメイするのさ」尼さんは両目を赤く腫(は)らしている。
    「えっ‥‥‥」と、阿Qは腑に落ちない。
    「知らないのかい。もう來てカクメイしてしまったんだよ」
    「誰が‥‥‥?阿Qはますます腑に落ちない。
    「秀才と毛唐だよ」
    あまりの意外さに、阿Qは茫然となった。阿Qの鋭気のくじけた隙に、尼さんはすばやく門を閉めた。
    阿Qが再び推したときは、門はびくともしなかった。重ねて叩いたが、返事がなかった。
    それはまだ午前中のことであった。趙秀才は、早耳で革命黨が夜前入城したことを知った。
    彼は辮髪を頭の頂きに巻き上げて、起き抜けに、それまで交際のなかった銭毛唐を訪問に行った。
    時(shí)はまさに「御一新」時(shí)代である。従って彼らは、うまが合って、たちまち意気投合の同志となり、
    相攜えて革命への邁進(jìn)を約した。彼らは研究に研究を重ねた。
    その結(jié)果、靜修庵には「皇帝萬歳萬萬歳」と書かれた竜牌があることを思い出して、
    これを革命の血祭りにあげようと話がきまり、さっそく相攜えて庵へ革命しに出かけて行った。
    年取った尼が出てきて邪魔したので、ニ、三押し問答の末、両人は尼を満州政府なりとして、
    したたか頭上にステッキと鉄拳とを加えた。両人が帰った後で、尼さんが気を落ち著けて調(diào)べてみると、
    竜牌はもちろん粉々に砕けて地に落ちているし、そのうえ、観音像の前に供えてあった宣徳焼の香爐が失われていた。
    そのことを、阿Qは後になって知った。彼は、自分が寢過ごしたことを殘念がった。
    しかしまた、両人が彼を迎えに來なかったのを怨んだ。だがまた、一歩退いてこうも考えるのであった。
    「さては奴らは、おれが革命黨になったのをまだ知らないな」
    第八章 革命禁止
    未荘では、日一日と人心が安定していった。城內(nèi)から伝わってくる風(fēng)説によると、革命黨は入城したものの、
    別に大した変化はないとのことであった。知事閣下はやはり元のままで、ただ官名が変わっただけである。
    それから挙人旦那も、何とやらいう‥‥‥これらの名前は未荘人にはきいてもわからない‥‥‥官職についた。
    兵隊(duì)の長はやはり以前の緑営軍準(zhǔn)尉が當(dāng)たっている。ただ、ひとつだけ恐ろしい事件が発生した。
    それは、別に悪い革命黨が何人かまじっていて亂暴をし、次の日からは辮髪を切りはじめたことである。
    何でも隣村の船頭の七斤がやられて、ふた目と見られないザマにされたという。
    しかしこれは、大してこわがるほどのことではなかった。というのは、未荘の連中はめったに城內(nèi)へは行かなかったし、
    また、たまに行きかけたものでも、さっそくその計(jì)畫を変更しさえすれば、危険にぶつからずに済んだからである。
    折から阿Qも、城內(nèi)の昔の友達(dá)を訪問する予定であったが、この噂をきいたので、止むなく取りやめにした。
    しかし、未荘にも革命がなかったわけではない。四、五日たつと、辮髪を頭の頂きにぐるぐる巻きにしたものが次第にふえてきた。
    前に述べたように、先鞭はむろん秀才先生だった。次は趙司晨と趙白眼であった。阿Qはその後である。
    これが夏のころなら、人々が辮髪を頭の頂きにぐるぐる巻きにしたり、あるいは束ねたりするのは、少しも珍しくない。
    しかし、今はもう秋も末であるから、この「冬の帷子(かたびら)」式の風(fēng)俗は、
    巻き上げ家にとっては大英斷と言わざるをえないし、未荘にとっても革命と無関係だとは言えないわけである。
    趙司晨が後頭部をサバサバさせて來かかるのを、見ていた連中がさかんにはやしたてた。
    「ほれ、革命黨だぞ」
    それをきくと、阿Qは羨ましくてならなかった。秀才が辮髪を巻き上げたというビッグニュースは、
    彼はとっくに承知していたが、自分にもまねができるということには考え及ばなかった。
    いま、趙司晨もそうだと知って、はじめてまねる気になり、実行の決心をした。
    彼は、竹の箸で辮髪を頭の頂きに巻きつけ、しばらくためらった末、ようやく思い切って外へ出てみた。
    彼は街を歩いていった。人々は彼の方を見たが、何とも言ってくれなかった。
    阿Qは最初、おもしろくなかった。そのうちに不満になってきた。このごろ、彼はおこりっぽくなっている。
    実際は、彼の生活は、謀叛の前に較べて決して悪くはなく、人も彼に一目置いているし、
    商店も現(xiàn)金をよこせなどと言わなかったのだが。だが阿Qは、それにしても得意になれなかった。
    いやしくも革命したからには、こんなことであってはならない。しかも、あるときなど、
    彼は小Dにぶつかって、ますます癇癪をつのらせることになってしまった。
    小Dも、辮髪を頭の頂きにぐるぐる巻きにしていた。しかも、やっぱり竹箸に巻いているのだ。
    阿Qにしてみれば、まさか彼にこんなまねができようとは夢(mèng)にも思わなかったし、
    また彼にこんなまねをさせて黙っているわけにもいかなかった。小Dなんて、いったいどこの馬の骨だ。
    さっそく彼をつかまえて、その竹箸をへし折り、辮髪を解いてしまい、かつ鉄拳を食らわせて、
    彼がおのれの素性を忘れて革命黨になろうとした罪を懲(こ)らしてやろうと本気に考えた。
    だが、結(jié)局は勘弁してやることにした。ただ睨みつけて「ペッ」と唾を吐くだけに止めた。
    この數(shù)日間に城內(nèi)へ行ったものは、にせ毛唐がただひとりであった。
    趙秀才は、衣裳箱を預(yù)かってやった恩顧を盾に取って、自身で挙人旦那を訪問する腹でいたところが、
    髪切り騒ぎが起こったので中止してしまった。彼は「第一公式」の手紙を書いて、
    にせ毛唐に託して城內(nèi)へ屆けてもらい、あわせて自由黨(ヅーイウタン)への入黨のための紹介方を懇望した。
    にせ毛唐は戻ってくると、秀才に銀四元の立て替えを請(qǐng)求した。それ以後、秀才は銀の桃を上衣に吊るすようになった。
    未荘人は感服して、あれは柿油黨(ヅーイウタン)の勲章で翰林(かんりん)に相當(dāng)するものだと噂しあった。
    そのため趙旦那までが急に威張りだしたことは、息子がはじめて秀才になったとき以上で、眼中何ものもなく、
    阿Qなどに出會(huì)っても、ほとんど葉牙にかけないそぶりを見せた。
    ちょうど阿Qは、內(nèi)心不満で、時(shí)々刻々自分が落ち目にあるのを感じていた際とて、この銀の桃の風(fēng)説をきくと、
    彼はただちに自分の落ち目の原因を了解した。革命するなら、口で參加を言うだけではダメなのだ、
    辮髪をぐるぐる巻きにしただけでもダメなのだ。何よりもまず革命黨と懇意にならなければダメだ。
    彼がかねて知っている革命黨はたったふたりだけだった。そのひとり、城內(nèi)にいたのは、
    とっくに「バサリ」とやられてしまった。今では、にせ毛唐がひとり殘っているだけだ。
    さっそく出かけていって、にせ毛唐に相談するよりほかには、もう道はないのだ。
    銭の邸の表門はちょうど開いていたので、阿Qは恐る恐る忍び足にはいって行った。みると、彼はびっくりした。
    にせ毛唐が內(nèi)庭のまん中につっ立っている。全身まっ黒な、たぶん洋服というものだろう、それを著て、
    その上に、これも銀の桃を吊るして、手には、阿Qが見舞われたことのあるステッキを攜えている。
    やっと一尺ばかり伸びた辮髪をばさばさに解いて、肩の上まで垂れ、髪を振り亂したところは、
    まるで畫にかいた劉海仙人にそっくりだ。その真向かいに、畏(かしこ)まって立っているのが、
    趙白眼と三人の遊び人で、今まさに謹(jǐn)んで演説を拝聴しているところだった。
    阿Qは、こっそり近寄って、趙白眼の背後に立った。言葉をかけようと思ったが、
    なんといって呼びかけたものかと迷った。にせ毛唐、むろん、これはダメだ。異人さん、これもよくない。
    革命黨、やはりダメ。西洋先生、まあこんなものだろうか。
    西洋先生は彼に気がつかなかった。ちょうど目を白くして演説に油が乗っているときだったから。
    「私は短気なものでありますから、顔さえ見ればこう申しました。
    黎元洪(リーユアンホン)君、われわれも著手しよう。ところが相手は、きまってこう申しました。
    ノウ‥‥‥これは外國語であるから、諸君にはわからない。そうでなければ、とっくに成功しとったのであります。
    しかし、これこそ彼が用心深い點(diǎn)なのであります。彼は再三再四、私に湖北へ行ってくれと頼むが、
    私はまだうんと言わない。誰もこんな小さな県城で仕事をしようなどとは思わんが‥‥‥」
    「え‥‥‥その‥‥‥」阿Qは、彼が一息つくのを待って、とうとう思い切って勇気を出して、口をきった。
    ただ、どうしたわけか、西洋先生と呼びかける言葉は、口から出てこなかった。
    演説を聴いていた四人がびっくりして振り返った。西洋先生も、やっと彼に気がついた。
    「何だ?」
    「その‥‥‥」
    「出て行け」
    「わしも‥‥‥」
    「うせろ!」西洋先生は、葬い棒をふりあげた。
    趙白眼と遊び人とは、口々にどなった。「先生が出て行けと言われるのだ。わからんか」
    阿Qは、手で頭をかばうようにして、知らぬまに門の外まで逃げ出していた。だが西洋先生は、追っては來なかった。
    彼は六十歩ばかり駈け足してから、並足に戻った。すると心のうちに、悲しみがこみあげてきた。
    西洋先生が彼に革命を禁ずるとすれば、もうほかに道はない。
    白兜白鎧の人が彼を誘いに來るあては、絶対になくなってしまった。
    彼のもっていた抱負(fù)、意図、希望、前途、それらは全部ご破算だ。
    遊び人たちが言いふらして、小Dやひげの王などまでバカにされる、なんてことは、そもそも第二の問題だ。
    こんな味気ない思いをしたことは、かつてなかったような気がした。
    辮髪をぐるぐる巻きにしたのさえ、無意味なことに思われて、バカらしくなった。
    腹いせに思い切って垂らしてやろうかとも考えたが、それもやりかねた。
    ぶらぶら歩いているうちに夜になり、つけで酒を二杯ひっかけた。
    酒が腹へはいると、次第に機(jī)嫌がなおり、ようやく白兜白鎧の破片が再び頭に浮かんでくるのであった。
    ある日、彼はいつものように、夜中までぶらつき、居酒屋が看板になってから、ようやく地蔵堂へ引き上げた。
    パーン、ガラガラガラ‥‥‥
    突然、異様な物音を彼はききつけた。爆竹の音のようではない。
    野次馬が飯より好きな阿Qのこととて、さっそく、闇のなかを駈けつけた。
    向こうから人の足音がするらしい。聞き耳を立てていると、突然、ひとりの男がこちらへ逃げてきた。
    それを見ると、阿Qもいそいで身を翻して、後へついて駈け出した。その男が角をまがると、阿Qもまがった。
    まがったところでその男が立ち止まったので、阿Qも立ち止まった。うしろを振り向いたが、何もいない。
    その男を見ると、それは小Dであった。
    「何だい?」阿Qは、つまらなくなってきた。
    「趙‥‥‥趙の家が、やられた」小Dは、息をせいて言った。
    阿Qの心臓はドキドキ波を打った。小Dは、そう言ったまま去ってしまった。
    阿Qは、逃げたり止まったり、また逃げたり止まったりした。
    しかし、なんといっても「この商売」に経験があるだけに、肝っ玉が太い。
    彼は、道の角からはい出て、よくよく聞き耳を立てた。ガヤガヤしているようだ。
    よくよく透かして見た。無數(shù)の白兜白鎧がいるようだ。
    後から後から、衣裳箱を擔(dān)ぎ出し、家具を擔(dān)ぎ出し、秀才の細(xì)君の寧波寢臺(tái)まで擔(dān)ぎ出しているようだ。
    ただ、はっきり見えないので、もっと前へ出ようとしたが、両足とも言うことをきかなかった。
    この晩は月がなかった。未荘は暗黒の底に靜まり返っていた。
    靜まり返って、伏義(ふっき)(伝説の帝王)時(shí)代のごとくに太平であった。
    阿Qは立って見ていた。見ているうちに自分でもいらいらしてきた。
    が、向こうは、相変わらず前と同じように、行ったり來たりして運(yùn)んでいるようだ。
    衣裳箱を擔(dān)ぎ出し、家具を擔(dān)ぎ出し、秀才の細(xì)君の寧波寢臺(tái)まで擔(dān)ぎ出し‥‥‥あまり擔(dān)ぎ出すので、
    彼はどうやら自分の眼が信じられなくなってきた。