日語閱讀:山の湖

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十勝平野は,その朝,霧に包まれていた。窓を開けると,霧は靜かに部屋の中へ流れてきた。十勝川溫泉の宿である。しいんとみんな,まだ寢靜まっている。起きるには早すぎる。わたしは,もう一度寢床に戻って,一眠りした。
    その間に,霧は晴れた。光は十分明るいが,日差しは鈍い,曇った空だった。宿のすぐ前を流れる十勝川の水も,ゆったりとまだ半分眠っているようである。
    朝食を済ませて,車で然別湖へ向う。
    回りは,すべてよく耕された畑だ。大豆の畑やキャベツの畑が続く。一まいの畑の面積が,本州以南とは,比べものにならないほど大きい。まっすぐなあぜが,その大きな長(zhǎng)方形を,かっきりと區(qū)切っている。整然として広い。
    道は山路に差し掛かる。大雪山國(guó)立公園地域の南のはずれへ,十勝平野から北上するわけだ。然別湖は,標(biāo)高七九七メートルの火山湖なのである。
    幾度か車を止めて,道草を食いながら,最後にひときわ深い原始林を抜けたと思ったら,ついに湖の岸辺に出た。とろりと靜止して,まるで水本來の流動(dòng)性を忘れたような湖面である。
    湖岸線が,複雑に入り組んだ湖だ。小さな曲折が,いくつもの入り江を作り出している。ある所では,ヒョウタンのおしりのようにまるまると広がり,ある所では,両岸が互いに近づき合って,川のように見える。
    窓から湖をカメラに納めようとねらったが,木が茂りすぎている。レンズいっぱいに湖面を入れられる所が,ついに見つからなかった。原始林の木立ちが,水際ぎりぎりまで茂っているのである。
    水際の木立ちは,そのまま,根元からの倒影を,湖面に映している。その影が,水の色を変える。シラカバの影の部分は明るく,針葉樹林(しんようじゅりん)の影の部分は暗い。おまけに,絶えず山霧がわいて消える。山にかかる雲(yún)の動(dòng)きも激しい。今見えていたと思った山の頂は,ほんのしばらくすると,もう雲(yún)にかくれていたりする。その雲(yún)や山霧の去來が,湖の色に,絶えず変化を與えている。
    湖畔の旅館の前まで來たら,ようやく人間臭くなってきた。それまでは,俗世間からまったく離れた原始境,人間のにおいからは遠(yuǎn)くへだてられた感じであった。
    定期バスが止まっていた??亭蚪丹恧筏郡ⅳ趣趣撙à疲啸工沃肖悉椁盲荬?。運(yùn)転手と車掌とが,発車時(shí)刻を待つ間,その辺を運(yùn)動(dòng)がてら散歩している。
    水際に宿が建っている。この建物を建てるために,初めて湖岸の木立ちが切り開かれたのだろう。ここからだけは,木立のさまだけなしに,直接水面を見ることができた。
    階下の軒下から,小さなさん橋が水に突き出て,両側(cè)にずらりと,貸しボートがつないである。豆遊覧船も,船尾(せんび)に日の丸の小旗を立てて,客を待っている。この辺りだけが,この原始の湖で,ただ一つの人間的なものだ。
    湖が入り日に赤く染まるのをながめながら夕飯を食べる間も,過ぎ行く時(shí)の経過をおしとどめたい思いがする。はしを止めて,窓の外へ視線を投げる時(shí)間が,つい長(zhǎng)くなる。惜しむ間もなく,日はあわただしく落ちて,夕闇がせまってくる。
    ふろから上がってきたら,辺りは,もうすっかり暮れていた。山も原始林も,黒く寢靜まっている。
    しばらくすると,月が昇ってきた。青くさえた月の光りだ。霧は晴れている。山はシルエットになって目の前にやさしく座り,黙然と白銀に光る湖を見下ろしている。
    晝間と同じ場(chǎng)所なのに,まるで感じは一変した?,F(xiàn)実のものとは思えない,夢(mèng)幻の世界の山と湖のようである。湖面は冷たい光を放ちながら,しかも引き込むような怪しい力を持っている。うっかり外へは出られない。ひとり湖畔にたたずんだりしたら,何の考えも,抵抗もなしに,身をおどらせて飛び込みたくなるかもしれない。
    湖の底に主がいて,人を引きずり込むなどという言い伝えがよくあちこちにあるが,そんな伝説を生み出した人々の気持ちが,わかったような気がする。