1998年日本語能力測試一級文法

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問題Ⅰ 次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。答えは、1·2·3·4から最も適當なものを一つ選びなさい。
    川に上流と下流があるように、われわれのくらしにも上流(アップストリーム)と下流
    (ダウンストリーム)がある。栓をひねると出てくる水の來るところは上流であり、流しに捨てた水の行く先は下流である。米、肉、魚、野菜、電気、ガス、石油、こういったくらしに必要なものを供給するところが上流であり、臺所で出る野菜くず、便所の屎尿、こういった邪魔物をほうり出すところが下流である。
    われわれは、例外なく、下流より上流の方を気にする。上流が汚れ、亂れると、水や食べ物がまずくなり、危なくなり、くらしの楽しみが減り、からだが傷つけられやすくなるからである。上流にくらべて、下流に対する関心はゼロといってよいくらいうすい。目の前においておくと嫌なものを、見えないところ、遠いところに持っていくだけで、もう、すっかりその存在さえ忘れてしまう。(②)自家用車を運転している人は、気楽な気分で歩行者や自転車族に排気ガスを吹きつけているのだが、そのことを意識している人はほとんどいない。これなど下流に対する無関心の典型である。
    それでも、昔、ずっと昔だと、上流と下流は、両方ともくらしのすぐそばに一緒にあって、誰の目にもその様子がよく見えていた。食べる肉がつい一刻前までは庭を走りまわっていた鶏であったり、野菜くずが庭のすみの穴に埋められ、しばらく後で堆肥になり畑に使われるといったことが、ありふれた風景であった。この當時だと、上流は自然と自分で監(jiān)視していることになったし、自分は下流に関心がないといっても、少なくとも家族の中の一人がそれを始末していることは目にしていた。だから、直接手をつけなかったとしても、下流の狀態(tài)は、まちがいなくみんなが知っていた。
    上流と下流が両方ともそばにあるということは、自分の生活の上流が他人の生活の下流であるということである。それはまた、自分の下流が他人の上流であることでもあった。だから、そういう時代、人は(⑤)生活をしていた。飲み水を汲む流れのすぐ上でおしめを洗うことは、いくら田舎でもつつしまれていたし、食べ頃の野菜に下肥をまくことは、絶対にしなかった。お互いにそのような知恵を働かしあって、人は生活を作っていた。
    ところがやがて、都市と農村がわかれてきた。そして都市では、上流と下流が見えにくくなってきた。それは都市生活の一つの大きな特徴だった。
    都市が大きくなるにつれ、都市のこの特徴は度が進んでいった。実際今では、自分の家の水道から出る水が、○○川の△△取水口から入る、あの濁りのある水だという実感を持って水を使っている人はいないだろう。関心の大きいはずの上流のことさえ、都市では、小學校の教科書と社會見學だけになっている。まして下流に屬するごみや下水のこととなると、それは観念の世界のことでしかないと言って過言でないだろう。それが現(xiàn)代の都市生活における"下流"の位置である。上流も見えないが、下流はそれ以上に見えないというのが、現(xiàn)代の都市生活の特徴なのである。
    (吉村功「ごみと都市生活」による)
    (注1)一刻前:時間的に少し前、先ほど
    (注2)堆肥:肥料
    (注3)おしめ:おむつ、赤ん坊の大便や小便を受けるために體に當てる布
    (注4)下肥:人間の大便や小便を用いた肥料
    問1 ①「われわれは、例外なく、下流より上流の方を気にする」とあるが、その理由として正しいものはどれか。
    1 上流の存在を忘れてしまっているから。
    2 下流は見えないところが多いから。
    3 上流が汚れると被害を受けるから。
    4 下流はありふれた風景だから。
    問2 (②)に入れることばとして適當なものはどれか。
    1 たとえば 3 そのうえ 4 それから 5 ところが
    問3 ③「直接手をつけなかった」とあるが、例えばどのようなことか。
    1 鶏の肉を自分で料理しないこと
    2 野菜くずを自分で埋めないこと
    3 上流を自分で監(jiān)視しないこと
    4 下流を自分で見に行かないこと
    問4 ④「上流と下流」の例として適當な組み合わせはどれか。
    1 上流:水道の栓 下流:臺所
    2 上流:排気ガス 下流:自家用車
    3 上流:鶏 下流:野菜くず
    4 上流:堆肥 下流:畑
    問5 (⑤)に入る適當なものを選びなさい。
    1 上流を気にしないで
    2 下流を気にしないで
    3 上流を気にしながら
    4 下流を気にしながら
    問6 ⑥「実際今では、自分の家の水道から出る水が、○○川の△△取水口から入る、あの濁りのある水だという実感を持って水を使っている人はいないだろう?!工趣ⅳ毪?、この文で筆者が言いたいことは何か。
    1 都市と農村とで生活が異なってきたこと
    2 上流のことがわからなくなっていること
    3 水を使っている実感がなくなってきたこと
    4 自分の使った水がどこへ行くかわからないこと
    問7 ⑦「それは観念の世界のことでしかない」とあるが、それはなぜか。
    1 生活の中では、下流のことがほとんど見えないから。
    2 都市化によって、川の水がだんだん汚れてきたから。
    3 現(xiàn)代の都市では、上流より下流の方に関心が高いから。
    4 學校で子供たちに上流のことをあまり教えていないから。
    問8 この文章によると、現(xiàn)代の都市の人々の上流と下流に対する理解はどのようなものか。
    1 上流についても下流についても同様によくわかっている。
    2 上流についても下流についてもまったくよくわからない。
    3 上流のこともわかるが、下流のことはもっとわかっている。
    4 上流のことはよくわからないし、下流はもっとわからない。
    問題Ⅱ 次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。答えは、1·2·3·4から最も適當なものを一つ選びなさい。
    「???」という鈍い音がしました。手近な窓から外を確かめてみましたが、別に異常はないようでした。臺所へ飛んでいきました。ちょっとこげ臭いような匂いがしました。あわてて火の元を確かめましたが、火の気もありませんでした。窓が全部開いていて風が流れ ①るので、匂いの元が分りません。危険はなさそうなので、ひとまず安心して、脫水が終わっているはずの洗濯物を干そうと思いました。ところが脫水が途中で止まってしまっているのです。洗濯機の回りにこげ臭い匂いがしました。原因は洗濯機でした。 ② 修理を頼んで分ったのですが、その洗濯機は問題になっている機種でした。ある年に作られた製品の一部の部品に欠陥があるとのことでした。メーカー側の対応は場合が場合だ③ けに実に丁寧でした。
    さっそく次の日、修理の人が來てくれました。二十代と五十代らしき二人の男の人で、言葉に素樸なお國なまりがありました。特に殘暑の厳しい日の晝下がり、慣れぬ東京のしかも分りにくい世田谷を、地図を片手に迷い迷い來てくれたらしく、二人ともシャツに汗がしみ出していました。
    「本當にご迷惑をかけてしまって申し訳ありませんでした」と、二人はまるで自分たちが悪いことでもしたかのように、深深と頭を下げてから仕事にとりかかりました。途中、 ④ 若いほうの人が、故障の原因だった部品を手に細かく説明してくれました。そして、他の個所も調べて、部品を交換してくれました。 「私たち今度のことで急に東京に呼ばれましたが、普段は工場で洗濯機作ってるんです。⑤こんなにきれいに永いこと使ってもらってうれしいです。これでまた新品同様になりましたから、使ってやて下さい?!?⑥ 二人は洗濯機の外側を撫でるように布で拭きながらそう言って、帰っていきました。 以來、洗濯機は前にもまして実に快調です。大事に使おうと思っています。
    (山內美郷「晝下がりのひとりごと」による)
    (注1) 火の気:火のある気配
    (注2) 脫水:水分を取り除くこと。洗濯機にこの機能がついている。
    (注3) お國なまり:出身地の言葉の特徴
    (注4) 晝下がり:午後1時、午後2時のような午後の早い時間
    (注5) 世田谷:東京の中の地域名の一つ
    (注6) 快調:調子がいいようす